【約束された場所で―underground〈2〉】村上春樹

約束された場所で―underground〈2〉
もうひとつの【アンダーグラウンド】
〈1〉が地下鉄に乗って被害にあった人たちの物語だったのに対して、こちらはオウム真理教の教団に属していたひとたちからのインタビューをまとめたものだ。
直接事件に関わった人たちではない。もちろんサリンのことも知らされていない一般信者。
サリンを撒いたことは許せない。
事件後の教団との関わりはそれぞれだが、教団にいたことには後悔していない。
なぜなら、自分を高めるために修行し、より良い世界をつくるために努力を重ねてきた日々は、自分たちにとって、輝いていたからだ。
良く言えば、「純粋」だし、悪く言えば「独りよがり」。
巻末の『河合隼雄氏のと対話』のなかでも書かれていたけれど、
「正義」にはまりやすい「純粋」な人たちほど危うい。
こういうひとたちは、必ず社会の中である一定の割合で存在している。
この人たちの受け皿がなければ、同じような集団は必ずまた発生する。
先日、オウム関連事件の裁判がすべて終了したけれど、この事件の決着はついていない。
それどころか、能力主義がますます高まって、あちら側にいってしまう人が増える可能性が増している。
なんとか「受け皿」をつくっていくか、社会全体の中で彼らが生きられるようにしていく。
でないと、またそういう集団が麻原を生み出して、行き着くところまで行ってしまうかもしれない。

あと、すごく気になった箇所。『河合隼雄氏のと対話』中の村上氏の言葉。
『オウムの人に会っていて思ったんですが、「けっこういいやつだな」という人が多いんですね。はっきり言っちゃうと、被害者のほうが強い個性のある人は多かったです。良くも悪くも「ああ、これが社会だ」と思いました。それに比べると、オウムの人はおしなべて「感じがいい」としか言いようがなかったです。』
自分で自分の「悪」を抱えて生きると、まあ多少悪くはなるんだろう。
それを捨てれば「いい人」になれちゃうのかもしれないけれど、弊害は大きいんだよね。

(2011.7月26日読了)

先日、NHKでやっていた「未解決事件File.02 オウム真理教」、4時間あったんだから、もっと掘り下げてほしかった…。麻原の野心が信者を引きずっていったという結論も、ちょっと浅いんじゃないか。警察の捜査についての取材も甘過ぎだし。
上祐、年取ったね。相変わらずだったけど。

カテゴリー:村上春樹

コメントをどうぞ  |  トラックバックURL:http://kalapanic.com/2012/05/post-2014.php/trackback

【ナニワ・モンスター】海堂尊

ナニワ・モンスター
大阪のはずれ。浪速市の小さな診療所で、新型インフルエンザ・キャメルの患者が発見された。
まだワクチンが製造されていない新型インフルエンザの国内初の患者。
パンデミックの可能性に、大阪をはじめ、日本中が大混乱に陥る。
空港も厳戒態勢となるなか、さらに浪速市・万台市・極北市・太宰市で罹患患者が見つかった。
それにしても、なぜこの4つの市に限って患者が発見されるのか…。
このインフルエンザ・キャメルの流行のウラ側を、浪速検閲所紀州出張所の喜国、東京地検特捜部のエース鎌形、おなじみの彦根が探り出す。
事件を追うにつれ、政界も絡んだ、新型インフルエンザに絡む陰謀が姿を現し始め…。
個人的な好みとしては、最初の発見者、診療所のおじいちゃん先生にもっと活躍してほしかったな。
いつもの大風呂敷な展開だけれど、笑い飛ばせない部分が、海堂氏の創作なのか、そんな話が実際にあったのか。ちょっと考えてしまいますね。
(2011.7月20日読了)

カテゴリー:海堂尊

1件のコメント  |  トラックバックURL:http://kalapanic.com/2012/05/post-2012.php/trackback

【3652】伊坂幸太郎

3652
伊坂幸太郎エッセイ集
2000年【オーデュポンの祈り】でデビューしてから、2010年にいたる10年間のエッセイをまとめた一冊。
謙虚に、趣向を凝らし、ときに辛口だったりもする。
書評をはじめとして、音楽・映画の話もあり、どれも面白そうだった。
伊坂父のハナシが、なんともおかしい。
健康マニアで、あらゆる健康療法をためし、『生きていくのが一番健康に良くない』と笑う。
伊坂父には、ほかにも面白いエピソードがいろいろあった。
2011年、毎年苦慮していると語っている干支のエッセイは、無事掲載されたのだろうか。
そして、今回の震災についてのエッセイは、どこかの雑誌で書かれたのだろうか。
次にエッセイ集としてまとまるまで待つのはツライので、探してみようかと思っている。
(2011.7月17日読了)

最近、本屋さんで伊坂幸太郎の新しいエッセイ集【仙台ぐらし】を発見、即購入してしまいました。
去年の3月から、地元仙台で掲載される仕事以外、断ってきたそうだ。
地元の出版社だから出したそうで、こういうバランス感覚がとても安心できる。

カテゴリー:伊坂幸太郎

1件のコメント  |  トラックバックURL:http://kalapanic.com/2012/04/post-2010.php/trackback

【新参者】東野圭吾

新参者
東京下町、人形町の古い商店街、甘酒横丁。
Tシャツにシャツを羽織ったラフないでたちの若い刑事が、聞き込みに回っていた。
飄々とした、およそ刑事らしくない様子だが、細かいことまで鋭く目がきく。
小伝馬町のマンションで起きた殺人事件。残された謎のひとつひとつをていねいに解き明かしていく。

第一章 煎餅屋の娘/第二章 料亭の小僧/第三章 瀬戸物屋の嫁/第四章 時計屋の犬
第五章 洋菓子屋の店員/第六章 翻訳家の友/第七章 清掃屋の社長/第八章 民芸品屋の客/第九章 日本橋の刑事

刑事・加賀恭一郎シリーズのなかの一冊。
マンションで殺された三井峯子も、日本橋署に赴任したばかりの加賀も、この古い町の新参者だ。
三井峯子が残していった謎には、各章に登場する人物や家族がもつ小さな秘密が潜んでいる。
誰かを守るための嘘から、人情の篤さが垣間見える。
本筋の殺人事件の謎解きより、周辺の小さな謎を解いていく部分が面白い。
それぞれの店で働く人たちの活き活きした日常が感じられる。
東野圭吾はさいごに読んだ【秘密】があまり好きになれず、もう読むのをやめようかなと思っていたのだけれど、この本は人の感情がまっすぐに書かれていてとても良かった。
店先に刑事が訪れて、会話を始める… 導入部の話の運び方も上手い。
さすが人気作家。
(2011.7月8日読了)

カテゴリー:東野圭吾

コメントをどうぞ  |  トラックバックURL:http://kalapanic.com/2012/03/post-2008.php/trackback

【アンダーグラウンド】村上春樹

村上春樹全作品 1990~2000 第6巻 アンダーグラウンド
昨年読んだ【1Q84】がどうにも理解ができなかったので、過去の村上作品を読んでみることにしました。まずは、宗教団体「さきがけ」がオウム真理教をベースにしているようなので、この【アンダーグラウンド】。本の厚さにびびりましたが、すらすらと読めました。
地下鉄サリン事件に遭遇した人たちを、たんねんに探し出し、インタビューをとる。
事件の被害者をさがす段階で「村上春樹の取材に協力を」という呼びかけをせずに、草の根を分けていくような方法で「事件に遭遇した人」を探し出す。根気のいる、とほうも無い作業だ。
被害者からの事件のインタビューのまとめ、というより、あのとき事件が起こった空間にいた人たちから話を聞き、事件の背景であった当時東京にいた人々の内側にあった流れを再構築する、という試みのようだった。
「たまたま」その電車に乗っていた人、駅に居合わせた人。被害の程度もまちまちだ。
彼らの生い立ちからはじまり、そこにいた理由、その後の行動、オウムに対する心情が語られてゆく。
さまざまな人々が集まって、当時の東京がつくられていたのだ。
オウム真理教は、私たちごく普通に生活している人々の中から生まれたことを感じさせられる。
驚いたのが、事件発生当時、倒れ込む人と異臭とを関連づけて、なんらかの有毒ガスが発生していることを把握していた人が本当に少なかったこと。
今、放射能騒ぎがずっと続いているけれど、状況を把握するのは本当に難しいことなんだなと思う。当事者だと、自分は安全だと信じたい方に、大きくバイアスがかかるものだなと。
あとで俯瞰してみると、なぜあのとき分からなかったのか、と思うけれど、やっぱり分からないものですね。
(2011.7月3日読了)

半年前の自分の文章を読んで、やはり今は今で状況がわからないな、と。
公表される数字はとりあえず信じてるんですが、公表されない部分でどんでん返しがありませんように、と祈ってる感じですかね。

カテゴリー:村上春樹

1件のコメント  |  トラックバックURL:http://kalapanic.com/2012/03/post-2007.php/trackback