村上春樹

【神の子どもたちはみな踊る】村上春樹

神の子どもたちはみな踊る
連作『地震のあとで』 その一〜その六
副題にある「地震」は1995年1月の阪神淡路大震災。
この連作のなかで最も早いものが1999年なので、じっくり熟成されてから書かれたもののようだ。
じんわりと不安に包まれていて、どこか生暖かい感じがする6つの小説。
阪神淡路大震災は、被災地からの距離のせいなのか、自分に影響がどう及ぶか分からない放射能のせいなのか、今回の東日本大震災とは、まるで違う手触りを受けている。
たしかに、この連作からは、当時の匂いが伝わってくる気がした。
この連作のなかで特に分かりにくかったのは、「かえるくん、東京を救う」だ。
かえるくんが地下にいるみみずくんと闘い、東京を震災から守るという話。
主人公の片桐(マジメで地味な信用金庫の融資係)は、ある夜、かえるくんの闘いを助ける。ということになっている。
けれど、闘いそのものが不明瞭だし、片桐がどう助けたのかも、片桐自身がわからない。
でも、なぜか彼らに共感できたような読後感。
みみずくんはなんだったのだろう。みみずくんは確かにいるような気がする。それは人によって違うかたちで現れてくる「みみずくん」なのだろうか。
どこかにいて、どこかで起きたことで、なにかを受けとる。
あらゆる事件や災害がそうであるように。
(2011.7月25日読了)

というわけで、1Q84を解明しようと三冊の春樹本を読んだのですが、
分かったかと訊かれると、まあ何の進展もなかったです。
でも、偶然去年これを読んだことは、なにか価値があったような…気がしています。

村上春樹

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【約束された場所で―underground〈2〉】村上春樹

約束された場所で―underground〈2〉
もうひとつの【アンダーグラウンド】
〈1〉が地下鉄に乗って被害にあった人たちの物語だったのに対して、こちらはオウム真理教の教団に属していたひとたちからのインタビューをまとめたものだ。
直接事件に関わった人たちではない。もちろんサリンのことも知らされていない一般信者。
サリンを撒いたことは許せない。
事件後の教団との関わりはそれぞれだが、教団にいたことには後悔していない。
なぜなら、自分を高めるために修行し、より良い世界をつくるために努力を重ねてきた日々は、自分たちにとって、輝いていたからだ。
良く言えば、「純粋」だし、悪く言えば「独りよがり」。
巻末の『河合隼雄氏のと対話』のなかでも書かれていたけれど、
「正義」にはまりやすい「純粋」な人たちほど危うい。
こういうひとたちは、必ず社会の中である一定の割合で存在している。
この人たちの受け皿がなければ、同じような集団は必ずまた発生する。
先日、オウム関連事件の裁判がすべて終了したけれど、この事件の決着はついていない。
それどころか、能力主義がますます高まって、あちら側にいってしまう人が増える可能性が増している。
なんとか「受け皿」をつくっていくか、社会全体の中で彼らが生きられるようにしていく。
でないと、またそういう集団が麻原を生み出して、行き着くところまで行ってしまうかもしれない。

あと、すごく気になった箇所。『河合隼雄氏のと対話』中の村上氏の言葉。
『オウムの人に会っていて思ったんですが、「けっこういいやつだな」という人が多いんですね。はっきり言っちゃうと、被害者のほうが強い個性のある人は多かったです。良くも悪くも「ああ、これが社会だ」と思いました。それに比べると、オウムの人はおしなべて「感じがいい」としか言いようがなかったです。』
自分で自分の「悪」を抱えて生きると、まあ多少悪くはなるんだろう。
それを捨てれば「いい人」になれちゃうのかもしれないけれど、弊害は大きいんだよね。

(2011.7月26日読了)

先日、NHKでやっていた「未解決事件File.02 オウム真理教」、4時間あったんだから、もっと掘り下げてほしかった…。麻原の野心が信者を引きずっていったという結論も、ちょっと浅いんじゃないか。警察の捜査についての取材も甘過ぎだし。
上祐、年取ったね。相変わらずだったけど。

村上春樹

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【アンダーグラウンド】村上春樹

村上春樹全作品 1990~2000 第6巻 アンダーグラウンド
昨年読んだ【1Q84】がどうにも理解ができなかったので、過去の村上作品を読んでみることにしました。まずは、宗教団体「さきがけ」がオウム真理教をベースにしているようなので、この【アンダーグラウンド】。本の厚さにびびりましたが、すらすらと読めました。
地下鉄サリン事件に遭遇した人たちを、たんねんに探し出し、インタビューをとる。
事件の被害者をさがす段階で「村上春樹の取材に協力を」という呼びかけをせずに、草の根を分けていくような方法で「事件に遭遇した人」を探し出す。根気のいる、とほうも無い作業だ。
被害者からの事件のインタビューのまとめ、というより、あのとき事件が起こった空間にいた人たちから話を聞き、事件の背景であった当時東京にいた人々の内側にあった流れを再構築する、という試みのようだった。
「たまたま」その電車に乗っていた人、駅に居合わせた人。被害の程度もまちまちだ。
彼らの生い立ちからはじまり、そこにいた理由、その後の行動、オウムに対する心情が語られてゆく。
さまざまな人々が集まって、当時の東京がつくられていたのだ。
オウム真理教は、私たちごく普通に生活している人々の中から生まれたことを感じさせられる。
驚いたのが、事件発生当時、倒れ込む人と異臭とを関連づけて、なんらかの有毒ガスが発生していることを把握していた人が本当に少なかったこと。
今、放射能騒ぎがずっと続いているけれど、状況を把握するのは本当に難しいことなんだなと思う。当事者だと、自分は安全だと信じたい方に、大きくバイアスがかかるものだなと。
あとで俯瞰してみると、なぜあのとき分からなかったのか、と思うけれど、やっぱり分からないものですね。
(2011.7月3日読了)

半年前の自分の文章を読んで、やはり今は今で状況がわからないな、と。
公表される数字はとりあえず信じてるんですが、公表されない部分でどんでん返しがありませんように、と祈ってる感じですかね。

村上春樹

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【雨天炎天】村上春樹

雨天炎天
―ギリシャ・トルコ辺境紀行
ギリシャ正教の聖地・アトス半島と、トルコの国境沿いを車でぐるりと回る旅の2本立て。以前読んだ村上春樹のヨーロッパ紀行【遠い太鼓】が面白かったので借りてみた。
予定調和を期待する観光旅行とは違う、その土地だけの空気に触れるための旅。
ギリシャのアトスは、山と断崖絶壁の半島。修道院ばかりが20もある聖地だ。
千年以上の歴史を持ち、厳格な戒律に守られている。聖地なので、異教徒は特別許可を得て4日間の滞在まで、女性は足を踏み入れることができない。
手つかずの自然がそのまま残されており、観光地化などとんでもない感じだ。
修道院にはそれぞれの個性がある。自給自足の自然食だから、食事が美味しいところもある。しかし、食べることなど徹底して無頓着、ギョッとするような荒々しい修道院も最後に登場する。この修道院のハナシはもう絶対に忘れられない。
村上氏も、ここが一番印象に残っているようだ。
こんなスゴい場所があり、そこで好き好んで生活をしている人がいる。世界は広くて、想定の範囲をはるかに超えている。
トルコ編でも、やはり辺境の地を巡っていく。
国境地帯を通過する旅は不便どころか、かなり危険だ。
貧しくて、のんびりして、度を超して親切なトルコ人。彼らの常識も日本とはかけ離れている。
どちらの旅も快適とはほど遠いけれど、行ってみたくなる魅力がある。
そもそもアトスは女人禁制で入ることすらできないけれど、そういう頑固な土地があることが、嬉しく感じてもしまうのです。
(2010.6月4日読了)

村上春樹

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【1Q84 BOOK3】村上春樹

1Q84 BOOK3
衝撃のラストで終わるBOOK2。その先がどうなるのか、そもそもこの物語のテーマは何なのか、皆目分からないまま手に取ったBOOK3。
目次を見て、またまたビックリ。
脇役としか認識していなかった人物が、物語の中心にきています。 えー!!??
BOOK3は、意外な人物が主人公の仲間入りをしたことで、面白く読めました。(私としては)
世界はぐるりとまわり、思いもよらないところで繋がりを見せる。
肉体は失われても、彼の場所はそこにある。彼の物語は続いていく。
春夏秋…と続いてきた1Q84、冬はあるのか? そこも気になるところであります。
ネタばれになるといけないかと思い、あえてあらすじにはふれませんでしたが、
発行部数を考えると、なにを今更…という気もしています ^^;
(2010.4月24日読了)

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